骨格筋幹細胞における転写因子 GATA4 の役割 —心筋と骨格筋をつなぐメカニズム—

骨格筋幹細胞における転写因子 GATA4 の役割 —心筋と骨格筋をつなぐメカニズム—

高谷智英.

信州大学バイオメディカル研究所代謝ゲノミクス部門.

第16回信州大学バイオメディカル研究所セミナー (伊那), 2016/02/01 (セミナー).

Abstract

我々は心筋・骨格筋・平滑筋の3種類の筋肉を持つ。健康で活動的な暮らしには、全ての筋肉の機能が不可欠である。しかし、生活習慣病の増加や超高齢社会の到来によって、心筋・血管平滑筋の障害を伴う循環器疾患や、骨格筋の衰弱を主徴とする運動器症候群が急増している。興味深いことに、慢性心不全の予後は骨格筋の委縮と強く相関するが、心筋と骨格筋の差異が障壁となり、循環器―運動器の統合的理解は進んでいなかった。これらの病態を筋肉の全身的疾患として把握し、総合的に予防・治療することで、健康長寿社会の実現に貢献できると期待される。

転写因子 GATA4 は、循環器疾患の増悪因子である。心筋は生後増殖しないため、障害を受けた心臓では、残存心筋が GATA4 の活性化によって代償的に肥大するが、最終的には破綻して心不全に陥る。また、血管平滑筋は増殖するが、GATA4 により病的な分裂が誘導されると、血管狭窄、ひいては心筋梗塞・脳梗塞の原因となる。

一方、骨格筋は、細胞膜と基底膜の間に幹細胞を持ち、強靭な再生能力を有する。骨格筋組織が障害されると、幹細胞が活性化されて前駆細胞となり、分裂を始める。増殖した前駆細胞は、筋分化・細胞融合を経て新たな筋管を形成し、骨格筋を再生する。我々は最近、GATA4 が骨格筋幹細胞で一過性に発現し、その増殖を促進して分化を抑制することを見出した。また、骨格筋幹細胞特異的な GATA4 欠損マウスの解析から、骨格筋の正常な再生に GATA4 が必須であることを明らかにした。

心筋と骨格筋の双方で GATA4 が働くことから、循環器疾患と運動器症候群には GATA4 を介した生理的な連関があり、GATA4 を標的とすることで両疾患の効果的な予防ができるのではないかと考えている。