体壁筋型トロポニン C の変異は線虫の発生、形態、運動に異常をもたらす
高谷智英1, 寺見浩美1, 宗田充宏2, 飯尾隆義2, 香川弘昭1.
- 岡山大学大学院自然科学研究科.
- 名古屋大学大学院理学研究科.
Mutations of the body-wall muscle troponin C cause abnormal development and behavior in Caenorhabditis elegans
Tomohide Takaya1, Hiromi Terami1, Mitsuhiro Soda2, Takayoshi Iio2, Hiroaki Kagawa1.
- Graduate School of Science and Technology, Okayama University, Okayama, Japan.
- Graduate School of Science, Nagoya University, Nagoya, Japan.
第27回日本分子生物学会 (神戸), 2004/12/09 (ポスター).
Abstract
線虫 Caenorhabditis elegans の体壁筋の収縮は、アクチン線維上に存在するトロポニン C (TnC-1) によってトロポニン I (TnI) とともに制御される。TnC-1 に m1: D64N と m2: W153stop の二つの置換が起こった変異体 pat-10(st575) は、致死の表現型を示す。TnC-1 は EF-hand サイト II, IV で Ca2+ と結合し、TnI と複合体を形成するが、m1 変異によりサイト II の Ca2+ 結合能が失われ、m2 変異によりサイト IV の Ca2+ 結合と TnI の結合能を失う。二つの変異を個別に持つ TnC-1-m1 および TnC-1-m2 を pat-10(st575) に形質転換した個体を観察した。m1 形質転換体は致死表現型が回復され、発生も正常だった。TnC-1-m1 はアクチン線維に集合し、形質転換体の筋肉構造にも異常がなかった。しかし若齢成虫以降で、運動・排卵・排泄不良を示した。また、陰門および生殖巣で形態異常が観察された。特に生殖巣では、先端細胞 (DTC) の伸長は正常でありながら、その後の形態維持ができないという表現型が観察され、体壁筋の細胞外マトリクスへの影響が示唆された。これらの表現型は、サイト II の失活による筋収縮の制御不良が原因であると考えられる。
一方、m2 形質転換体は致死であった。その原因を追及するため、m2 変異の周辺に人為変異を導入した TnC-1 を12種類作製し、Ca2+ 結合および TnI 結合を解析した。これらのうち、サイト IV の Ca2+ 結合もしくは TnI 結合が失われた変異 TnC-1 を pat-10(st575) に形質転換したが、致死表現型を回復できなかった。これらの個体ではアクチン線維が形成されているにも関わらず、変異 TnC-1 は線維上に集合していなかった。この観察から、TnC-1 のサイト IV の Ca2+ 結合および TnI 結合の両方が、トロポニン複合体の形成、ひいては個体発生に必須であることが明らかになった。F152 および W153 残基に変異を導入した TnC-1 では、完全に TnI 結合能が失われた。サイト IV の Ca2+ 結合能と合わせ、TnC-1 における分子レベルの機能異常から個体レベルの表現型に至る一連のモデルを提唱する。