骨格筋幹細胞と筋肉の再生

目次

心筋・平滑筋・骨格筋

筋肉は動物が動物たる所以ゆえんです。筋肉の働きによって、私たちは動きたいように動くことができます。高等動物には、心筋・平滑筋・骨格筋の3種類の筋肉があります。心筋は心臓の筋肉で、死ぬまで収縮を続け、全身に血液を送り出します。平滑筋は主に内臓を構成する筋肉で、血管のチューブも平滑筋でできています。骨格筋は私たちが自由に動かせる筋肉で、血液中の酸素と栄養を消費して運動を生み出します。動物の運動は、これら3種の筋肉の協調によって実現されます。各筋肉の細胞はよく似ていますが、同時に、大きく異なってもいます。筋肉の多様性を実現するメカニズムの理解も、私たちの目標の一つです。

心筋・平滑筋・骨格筋

骨格筋幹細胞 (衛星細胞)

骨格筋の特徴の一つは、その強靭な再生能力です。骨格筋の組織は、筋線維という多核の巨大細胞から構成されます。筋線維の細胞膜と基底膜の間には、単核の衛星細胞 (サテライト細胞) と呼ばれる幹細胞が存在します。筋線維1本あたり、数個〜数十個の衛星細胞が接着しています。筋線維は細胞分裂をしません。骨格筋の組織は、幹細胞である衛星細胞の働きによって再生します。

骨格筋幹細胞 (衛星細胞)

骨格筋の再生

通常、衛星細胞は静止状態にあり、増殖しません。しかし、骨格筋が損傷するなどの刺激を受けると、衛星細胞は活性化されて筋芽細胞と呼ばれる前駆細胞となります。筋芽細胞は数回の細胞分裂によって増殖した後、筋細胞へと分化します。そして複数の筋細胞が互いに融合して、多核の筋管となります。筋管は新しく筋線維を形成したり、元から存在する筋線維と融合することで、骨格筋を再生します (Yin 2013)。しかし、筋芽細胞の分化能力は、加齢や疾患によって衰えることが知られています。私たちは、動物の骨格筋から採取した筋芽細胞を培養し、研究材料として使用しています。

筋肉の再生

骨格筋の萎縮

加齢や疾患に伴って筋力や筋量が減少する筋萎縮は、日常生活動作 (ADL; activities of daily living) や生活の質 (QOL; quality of life) に大きく影響します。さらに筋萎縮は、疾患の予後 (死亡率) の独立した危険因子であることもわかってきました。心不全 (Anker 1997)、慢性腎臓病 (Carrero 2008)、がん (Blauwhoff-Buskermolen 2016)、糖尿病 (Miyake 2019) などの疾患で、筋萎縮と死亡率に強い相関が報告されています。筋萎縮の防止は、これらの疾患の治療にも重要であると考えられています。

筋萎縮の遠因の一つとして、筋芽細胞の機能低下が指摘されています。私たちは、筋芽細胞に作用する分子の探索を通じて、筋萎縮の新たな予防・治療法の確立を目指しています。以下のページで研究内容を詳しく紹介しています。

骨格筋の萎縮

筋萎縮とがん予後

筋萎縮と心不全予後

参考文献

Anker SD, Ponikowski P, Varney S, Chua TP, Clark AL, Webb-Peploe KM, Harrington D, Kox WJ, Poole-Wilson PA, Coats AJS. Wasting as independent risk factor for mortality in chronic heart failure. Lancet. 1997; 349: 1050-1053.

Blauwhoff-Buskermolen S, Versteeg KS, de van der Schueren MA, den Braver NR, Berkhof J, Langius JA, Verheul HM. Loss of muscle mass during chemotherapy is predictive for poor survival of patients with metastatic colorectal cancer. J Clin Oncol. 2016; 34: 1339-1344.

Carrero JJ, Chmielewski M, Axelsson J, Snaedal S, Heimburger O, Barany P, Suliman ME, Lindholm B, Stenvinkel P, Qureshi AR. Muscle atrophy, inflammation and clinical outcome in incident and prevalent dialysis patients. Clin Nutr. 2008; 27: 557-564.

Miyake H, Kanazawa I, Tanaka KI, Sugimoto T. Low skeletal muscle mass is associated with the risk of all-cause mortality in patients with type 2 diabetes mellitus. Ther Adv Endocrinol Metab. 2019; 10: 2042018819842971.

Yin H, Price F, Rudnicki MA. Satellite cells and the muscle stem cell niche. Physiol Rev. 2013; 93: 23-67.